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神戸家庭裁判所尼崎支部 昭和45年(家)309号 審判

申立人 谷口陽子(仮名) 外四名

相手方 谷口文子(仮名) 外一名

主文

一  被相続人の遺産をつぎのとおり分割する。

1  別紙遺産目録記載の不動産、電話加入権、動産、現金、預貯金その他の債権はすべて相手方谷口文子の取得とする。

2  相手方谷口文子は申立人谷口耐子に対し金六九、〇七八、三七一円を支払え。

二  申立人谷口陽子、同谷口明美、同谷口静子、同杉浦秋子の各本件申立てをいずれも却下する。

三  手続費用中鑑定人町田三郎に支給した金五〇〇、〇〇〇円および鑑定人水谷豊に支給した金五〇〇、〇〇〇円はいずれもこれを一〇分し、その一を申立人谷口耐子の負担とし、その余を相手方谷口文子の負担とする。

理由

第一本件各申立ての趣旨

被相続人の遺産の分割を求める。

第二当裁判所の判断

調査の結果に基づく当裁判所の事実上及び法律上の判断はつぎのとおりである。

一  事実関係

1  相続の開始

被相続人は、生前運送業、土建業、不動産業、風呂屋営業等をしていたが、昭和三八年五月ごろから健康を害して病臥するようになり、同年七月一日○○医大病院に入院して肝臓疾患の治療を受けるなどしたのち、同年八月三日国立○○病院に入院加療したが病状が悪化して同月一三日同病院において肝臓癌により死亡した。

2  相続人及びその法定相続分

(1) 申立人谷口耐子は、申立外東照子を母として出生し、被相続人の旧戸籍法による庶子出生届出により認知の効力が発生してその非嫡出子となつたものである。従つてその法定相続分は嫡出子の二分の一である。

(2) 申立人谷口陽子、同谷口明美は、いずれも申立外坂井花子を母として出生し、昭和三四年七月六日被相続人の認知届出によつてその非嫡出子となり、戸籍上は同三六年五月一一日被相続人及びその妻である相手方谷口文子の養子となる縁組届出によりその養女となつた旨の記載がある。

しかしながら、配偶者のある者が縁組をするにはその配偶者とともにしなければならないところ、調査の結果によれば、被相続人は当時谷口文子と婚姻し同居中であつたのに、妻である同女の同意を得ず無断で上記縁組届出をしたもので、谷口文子は当時から現在まで縁組の意思なく、その縁組を追認したこともなければ同申立人らを養育したこともないことが認められる。

もつとも夫婦の一方に縁組の意思がなかつた場合であつても、特段の事情がある場合には縁組の意思ある当事者の縁組のみ有効と認めることもありえようが(最高裁判所昭和四八年四月一二日判決参照)、本件の場合上記特段の事情は認められないので、上記養子縁組は被相続人との関係でも無効といわざるを得ない。

従つて、同申立人らは被相続人の非嫡出子として、その法定相続分は嫡出子の二分の一である。

(3) 申立人谷口静子、同杉浦秋子は、いずれも被相続人と相手方谷口文子との間の婚姻中の子として被相続人により嫡出子出生届出がなされ、それぞれの長女、二女として戸籍上記載されているが、調査の結果によれば、真実は同申立人らはいずれも申立外片岡ヨシ子が被相続人との性的交渉の結果分娩した婚姻外の子であるのに、被相続人が独断で文子との間の嫡出子として届出たもので、文子との間に母子関係が存在しないことが明らかである。

従つて、同申立人らが被相続人の嫡出子でないことはいうまでもないが、上記のような父たる者の嫡出子出生届出には認知の効力を認めるのが相当であると解されるので(昭和四〇年六月二三日法務省民事甲第一四五一号民事局長回答参照)、同申立人らは被申立人の非嫡出子として、その法定相続分は嫡出子の二分の一となる。

(4) 相手方谷口文子は、昭和一三年二月九日被相続人と婚姻し同人死亡時においてその妻であつた。従つてその法定相続分は三分の一である。

(5) 相手方谷口正一は、申立外北川明を母として出生し、被相続人の旧戸籍法による庶子出生届出により認知の効力が発生してその非嫡出子となつたのち、昭和三七年二月一六日被相続人及びその妻谷口文子の養子となる縁組届出によりその嫡出子たる身分を取得した。従つてその法定相続分は非嫡出子の二倍である。

(6) 以上七名が相続人であり、その法定相続分は妻である相手方文子が二一分の七、養子である相手方が二一分の四、非嫡出子である申立人らが各二一分の二ということになる。

3  分割協議の不調

昭和四二年二月二七日申立人谷口耐子からその余の当事者を相手方とし、相手方谷口文子が被相続人の遺産分割協議の申出に応じないとして、当庁に遺産分割調停の申立てがなされ、当庁同年(家イ)第七五号事件として係属し、同年七月一四日から同四三年一一月八日までの間前後一〇数回にわたり調停委員会による調停が行われたが、当事者間において合意が成立するに至らなかつた。

4  分割の対象となる遺産の範囲

(1) 被相続人の遺産(積極財産)と認めうるものは別紙遺産目録記載のとおりである。

(2) 遺産中不動産については、いずれも相続開始時においてその登記簿上の所有名義人が被相続人となつているので、生前に被相続人がその所有権を取得したことを推認することができる(いわゆる登記の推定力。最高裁判所昭和三四年一月八日判決参照。)。それが生前すでに特定の相続人若くは第三者に譲渡され又はそれらの者の固有財産であるとする主張があるけれども、その事実を認めるに足る資料がない。特に遺産中の不動産の多くは相続開始後間もなく、被相続人死亡の直前直後に急ぎ行われたとみられる手続によつて、相手方谷口文子に対する生前贈与を原因とする所有権移転登記が経由されているが、このような登記に上記推定力が及ばないのはいうまでもなく、被相続人の死亡に至る病状の経過、戸籍上の届出等に見られる被相続人の非嫡出子に対する思いやり等に照し、被相続人が遺言の形をとることなく子らを無視して口頭で一方的に文子に対し殆どすべての不動産を贈与するなどということは到底信じられないばかりでなく、そのことは当の文子以外の者は知らないというのであるから、認定資料甚だ不足といわざるを得ない。

そこで他に資料のあるものを除き(後出別紙対象外物件目録第二参照)、上記不動産を遺産と認定した次第である。

(3) ところで、遺産と認めた上記不動産の多くはその後相手方谷口文子の手によつて第三者に譲渡され、すでに登記も経由されている。それが単なる売買であろうと、相続債務弁済のための譲渡であろうと、分割前に相続人全員の同意を得ることなく遺産を処分したのであるから、登記に公信力のない以上、同意又は追認をした相続人以外の相続人の関係ではその持分につき所有権移転の効力はなく、法律的にはその部分が依然として遺産として現存するといわざるを得ない(最高裁判所昭和三八年二月二二日判決参照)。

いいかえれば、相手方谷口文子(及び同意又は追認した相続人が他にあればその者の関係でも又。)の持分の範囲では上記不動産の処分は効力を生じ、その部分のみ法律上遺産として現存しないのである。

(4) 遺産分割の対象については、分割時に現存する遺産に限るべきか、相続開始時に存在した遺産全部であるべきか議論の分れるところであるが、遺産分割の性質上原則として現存する遺産に限るべきであり、分割時までに処分され又は滅失した財産の代償財産が現存するときは公平の見地からそれをも分割の対象となしうるものとし、遺産も代償財産も現存しないときは場合によつては不当利得、損害賠償、求償等の法理により遺産分割とは別個に清算し、清算の容易なときは遺産分割審判においても便宜なしうると解するのが相当である。

本件の場合、谷口文子が処分したことにより現存しなくなつた不動産部分の代償財産の存否は明らかでない。しかし公平な分割が行われるためには、処分したことにより得た利益は民法九〇三条の法意を準用して分割すべき財産に持ち戻すべきであり、その評価の全体に対する割合は処分時においても分割時においても著しい変動はないと考えられる。そこで、現実の相続分算定に当つて現存部分と滅失部分とを区別することなく取り上げ、しかも後記のとおり爾後の無用な紛争を避けるため遺産である不動産をすべて相手方谷口文子に取得させるので、他の相続人の同意、追認の有無が明らかでないこともあり、法律関係が簡明に処理されることを期待して、便宜上不動産の所有権全体を遺産分割の対象とする(その結果不動産の所有権全部が相続開始時に遡つて相手方谷口文子に帰することが表示上明らかになる。)。

(5) 本件記録中にあらわれた不動産で、遺産分割の対象とせず、特別受益財産ともしなかつた物件は別紙対象外物件目録記載のとおりである。これらの中には遺産であるか否か明確でないものも含まれており、本審判において遺産と認めるに足る資料が不足しているということになるが、最終的には所有権の帰属は訴訟事項として民事訴訟を通じて結論が出されるべきものであり、現にいくつかの訴訟が係属中であることは当裁判所に顕著な事実である。

(6) 遺産中電話加入権、動産、現金、預貯金その他の債権は、本件相続に対する相続税の修正申告書により認定したものである。

預貯金その他の債権については、年月の経過から推して、すでに権利が行使されて消滅しているものと考えられる。そしてそれは本件相続財産の管理に当つた相手方谷口文子によつて権利行使され、その代償財産たる金銭は同相手方の固有財産と混同しているものと推認できる。

また、相続財産共有説をとる以上、可分債権は法律上当然に分割され共同相続人がその法的相続分に応じて権利を承継するものと解されるから(最高裁判所昭和二九年四月八日判決参照)、金銭債権及びこれに準ずべき金銭は原則として遺産分割の対象とならず、したがつて審判の対象とならないものである。しかし、民法九〇六条、九一二条等の趣旨に照し、このような場合でも、必要と認められるときは遺産分割の際に改めて分割の対象とし取得分を変更することもできるものと解することができるし、固有財産と混同した金銭でもその価値を把握することはできる。

本件においては、少くとも積極財産について公平な分配がなされ、無用の紛争を絶ち、単純な権利関係に統一する必要があると認められるから、上記金銭その他の債権をも(現存する代償財産の価値を目的として)分割の対象とすることにする。

(7) 遺産分割の対象となるのは、相続財産のうち積極財産のみである。相続債務又は相続税納付義務そのものを遺産分割の対象とすることはできない。債務は債権者との関係で相続分に従つて負担が義務づけられるのであり、相続税は各相続人の取得分に応じて各人に課せられるものであるからである。それを相続人の一部が立替支払つた場合の求償関係についても、遺産分割の審判とは別個に清算解決すべきである。

5  特別受益

当事者のうち被相続人から生前生計の資本として贈与を受けた者およびその財産、相続開始時におけるその価額は別紙特別受益財産目録記載のとおりである。

6  遺産の評価額

(1) 遺産中各不動産の相続開始時及び昭和四九年六月二四日現在の価額は、鑑定の結果により、別紙遺産目録第一中に記載したとおりと認められるところ、国土庁土地鑑定委員会の宅地公示価格によれば、大阪圏(大阪駅から約五〇キロメートル内の地域)の昭和五〇年一月一日現在における地価は前年同時期に比較して平均九・五パーセントの下落を示しており、同地域の昭和五〇年一月一日から同年四月一日まで三か月間の動向は〇・二パーセントの下落という調査結果が明らかにされているので、本件遺産中の各不動産(いずれも宅地)の価額は昭和四九年六月二四日の鑑定時から審判時までの約一一か月間に九・五×(6/12)+〇・三=五・〇五パーセントの下落があつたものと認めるのが相当であり、それを現在の価額とする。

(2) 電話加入権、動産については、同目録第二、第三記載のとおり、相続税修正申告書により西宮税務署の評価と認められる金額をもつて相続開始時の評価額と認めた。現在の価額については、電話加入権のうち西宮局の一加入権が現在五万円をこえることはないことが当裁判所に顕著であるからこれを各五万円と認めるほかは、資料上明らかでないので価額に変動がないものとする。

7  被相続人及び当事者の生活関係

被相続人は昭和一三年二月九日相手方谷口文子と婚姻し、前叙のとおり運送業等をして蓄財したが、文子との間の子に恵まれず、いわゆる妾関係にあつた申立外北川明、同東照子、同片岡ヨシ子、同坂井花子らとの間にもうけた合計六名の婚外子を文子に告げずにつぎつぎ入籍したこともあつて、文子と同居はしていたがその夫婦仲はあまりよくなかつた。しかし相手方正一との養子縁組については文子も了承し、幼時から引取つて養育して来たし、申立人耐子についてはその母が病弱であつたこともあつて、小学一年生の時から高校三年の秋(昭和三七年)まで文子が引取り養育した。そのほか申立人らはいずれもその実母と共同生活している。

以上の生活関係から相手方谷口文子と申立人らとの折合いはよいとはいえず、被相続人死亡後は文子がいち早く財産の管理権を一手に収め、血族関係者の協力のもと排他的に善後策をこうじたため、申立人ら及びその実母らは遺産分割問題を、文子より財産の分与を受けるという形で把握していた。

8  契約の成立

昭和四一年五月ごろ被相続人の遺産の分配に関し申立人谷口静子、同杉浦秋子両名の母であり親権者たるべき申立外片岡ヨシ子から委任を受けた同人ら代理人弁護士田中治と相手方谷口文子及び申立外英治との間において、別紙契約条項どおりの記載ある契約書が作成されて同内容の契約が成立し、その後契約内容は履行された。

契約条項によれば、遺産分配として文子が静子と秋子に対して土地建物と金一七〇万円を贈与し、静子、秋子、片岡ヨシ子はそのほかには遺産分配請求をしないことになつている。

いうまでもなく、遺産の分割は相続人全員の合意により成立するのであるから、特別の規定(例えば民法九一〇条)がある場合のほかは一部の相続人間でなされた遺産分割は無効である。

従つて上記契約による贈与の目的たる土地建物が遺産であれば、この契約は効力を生じない。しかしさきに判断したとおり、この土地建物を遺産であると認めるに足る資料はない。そこで、契約条項の表現はまぎらわしいけれども、この契約は遺産分割そのものを取り決めたものではなく、申立人静子と同秋子の相続分を相手方文子に譲渡し(或は文子のために相続分を放棄し)、その対価として文子が同申立人らに支払うべき給付内容を取り決めたものであると解することができる。このように解することが、契約によつて遺産分配問題を終了させることとした当事者の意思に合致するものである。

その結果同申立人らは遺産分割の当事者適格を失つたものといわなければならない。

9  裁判上の和解の成立

昭和四四年二月一九日申立外坂井花子(申立人谷口陽子、同谷口明美の母)を原告とし、相手方谷口文子、申立外大原うたえ、同中西正三郎の三名を被告とする神戸地方裁判所尼崎支部昭和四三年(ワ)第一九号事件について、別紙和解条項記載どおりの内容の裁判上の和解が成立し、第一項の金員支払義務は履行された。

和解条項によれば、陽子、明美に対する遺産分与金として文子が坂井花子に対して金一、二二五万円を支払うこととし、坂井花子は陽子、明美と亡貞一郎との関係についてそのほかに一切請求権のないことを確認している。

この和解の当事者である花子が未成年者陽子、明美の実母であるといつても、陽子、明美が当事者でない以上、同人らに和解の効力が及ばないことはいうまでもない。

しかしながら、和解において文子が花子に対し金員支払義務を認め、花子がその請求権者となつたのは、同女が被相続人貞一郎の子である陽子、明美の実母であるからに外ならず、同人らを離れて花子には相続に関する請求権の発生する原因がない。しかもさきに判断したとおり、貞一郎、文子夫婦と陽子、明美との間の養子縁組は無効であるから、花子が陽子、明美の親権者であり即ち法定代理人である。従つて上記和解は、陽子、明美の法定代理人である花子と文子との間に合意された陽子、明美と文子との間における貞一郎の遺産に関する法律関係が当然の前提となつているものといわなければならない。

すなわち上記和解は、申立人谷口陽子、同谷口明美両名に対する相手方谷口文子の債務履行方法を定めたものと解することができる。そして、文子と花子がこの和解によつて亡貞一郎の遺産に対する陽子、明美の相続問題を最終的に解決しようとした意思を合理的に解釈する限り、その前提となる合意内容は、陽子と明美の相続分を文子に譲渡し(或は文子のために相続分を放棄し)、その対価として文子が同人らに金一、二二五万円を支払うことであるといわなければならない。

その結果申立人陽子、同明美は、同静子、同秋子と同様、遺産分割の当事者適格を失つたものである。

10  申立人谷口耐子がその相続分を他の相続人に譲渡し又は放棄したことを認めうる資料はない。

二  現実の相続分の算定

1  民法九〇三条一項のみなし相続財産価額

(1) 相続開始時の相続財産価額

別紙遺産目録第一1ないし25の各(4)の合計額一一〇、七六一、八七四円と同目録第二ないし第三の各価額合計一〇、一三一、四八九円との合計一二〇、八九三、三六三円。

(2) 特別受益財産価額

別紙特別受益財産目録第一の価額五、七七三、一九四円と第二の合計額六一、〇二六、四六七円との合計六六、七九九、六六一円。

(3) みなし相続財産価額

(1)、(2)の合計一八七、六九三、〇二四円。

2  民法九〇三条一項による当事者各自の本来の相続分

(1) 相手方谷口文子 1の価額×(7/21) = 62,564,341円

(2) 相手方谷口正一 1の価額×(4/21) = 35,751,052円

(3) 申立人ら各自 1の価額×(2/21) = 17,875,526円

3  民法九〇三条一項による当事者各自の具体的相続分

(1) 相手方谷口文子 2(1)の価額62,564,341円

(2) 相手方谷口正一 2(2)の価額-別紙特別受益財産目録第二の合計額61,026,467円

= -25,275,415円 従つて具体的相続分は0

(3) 申立人谷口耐子 2(3)の価額-別紙特別受益財産目録第一の価額5,773,194円 = 12,102,332円

(4) その余の申立人ら各自 2(3)の価額17,875,526円

4  申立人静子、同秋子、同陽子、同明美から相続分の譲渡を受けたことによる相手方谷口文子の具体的相続分

3(1)の価額+3(4)の価額×4 = 134,066,445円

5  現在の相続財産価額

別紙遺産目録第一1ないし25の各(5)の合計額864,005,842円の5.05パーセント減である820,373,547円と同目録第二中西宮局の電話加入権を各5万円としその余は同価額としたものと同目録第三の各価額合計952,200円と同目録第四の合計額に相続開始後11年9か月間の民事法定利率年5分の割合による金員を単利で加算した金額12,984,621円の合計834,310,368円

6  現実の相続分

(1) 相手方谷口文子

5の価額×(文子の具体的相続分/文子の具体的相続分+耐子の具体的相続分) = 834,310,368円×(134,066,445円/146,168,777円)

= 765,231,997円

(2) 相手方谷口正一 相続分は0

(3) 申立人谷口耐子 5の価額×(12,102,332円/146,168,777円) = 69,078,371円

三  遺産の分割

さきに判断したとおり、遺産中不動産についてはその大多数がすでに相手方谷口文子の手によつて他に譲渡されており、その余の不動産も動産、債権等と共に同相手方の排他的な管理下にあつて、その運命は事実上同相手方の手中に握られているといつても過言ではない。このような場合、これを他の相続人(本件の場合申立人谷口耐子)に現物分割により取得させると、いたずらに法律上事実上の複雑な関係を生じさせ無用の紛争を繰り返すことになるので、遺産全部についてこれを相手方谷口文子に取得させ、具体的相続分との差額についてはこれを金銭的に清算させることとする。

その結果相手方谷口文子は申立人谷口耐子に対し金六九、〇七八、三七一円を支払うべきこととなる。

四  以上のとおり、申立人谷口陽子、同谷口明美、同谷口静子、同杉浦秋子の四名はいずれもその相続分全部を相手方谷口文子に譲渡して遺産分割当事者の資格を失つているので、その申立てをいずれも却下することとし、相手方谷口正一は持戻財産価額が本来の相続分を起えていて相続分を受けることができないので、遺産分割の当事者から排除し、本件遺産分割の方法として現物はすべて相手方谷口文子に取得させ、相続分との差額については債務負担の方法により同相手方に申立人谷口耐子に対する金員の支払を命じ、鑑定費用の負担について家事審判法七条、非訟事件手続法二七条にしたがい、主文のとおり審判する。

(家事裁判官 掘口武彦)

参考

契約条項

(昭和四一年五月(日不明)付。契約当事者 谷口静子、同秋子、片岡ヨシ子以上三名代理人(弁護士)田中治、谷口文子、英治。立会人 大原うたえ、中西正三郎。)

1 谷口文子は、谷口静子、同秋子が亡谷口貞一郎と片岡ヨシ子間に出生した子であることを認める。

2 谷口文子は、谷口静子、同秋子に対し、亡貞一郎相続財産の遺産分配として、西宮市馬場町○○番の○宅地七七坪三合八勺、同番地上木造スレート葺平家建居宅一棟(二戸建)建坪一二坪及び金一七〇万円を贈与することを確約し、英治はこれを承諾する。

3 谷口静子、同秋子、片岡ヨシ子は、前項のほかに何らの遺産分割請求は勿論、金銭的請求をしない。

4 第二項の贈与実行の方法として、その土地について、英治は現在係属中の神戸地方裁判所尼崎支部昭和三九年(ワ)第三六六号建物収去土地明渡事件において、片岡ヨシ子に対し即時、贈与に因る所有権移転登記手続をする旨の和解調書を作成すること。

5 地上建物(第二項の建物)について、片岡ヨシ子が自己所有建物として所有権保存登記手続をなすについて谷口文子は協力すること。

6 谷口静子、同秋子、片岡ヨシ子は、第四項の和解成立後すみやかに谷口文子に対する神戸地方検察庁尼崎支部における告訴手続の取下をすること。

和解条項

(昭和四四年二月一九日成立。原告 坂井花子、被告 谷口文子、同 大原うたえ、同 中西正三郎。)

1 被告谷口文子は、訴外谷口陽子、同明美に対する亡谷口貞一郎の遺産分与金として、右両訴外人の実母である原告に対し、金一、二二五万円を支払う義務あることを認め、これを次のとおり支払う。

(1) 金一五〇万円は昭和四一年一二月二〇日支払済である。

(2) 残金一、〇七五万円を昭和四四年二月末日限り原告代理人事務所に持参又は送金して支払う。

2 原告は被告谷口文子に対し、西宮市水波町○○番地 家屋番号○○番の○ 木造瓦葺平家建居宅床面積六一、九八平方米を、一(2)の金員の支払いを受けた日から三ヶ月経過した日をもつて明渡す。

3 原告は被告谷口文子に対するその余の請求を放棄し、被告大原うたえ、同中西正三郎に対する訴を取下げる。

4 被告大原、同中西は前項の訴の取下に同意する。

5 原告は、訴外谷口陽子、同明美と亡貞一郎との関係について、本件和解条項以外一切の請求権のないことを確認する。

6 訴訟費用は各自負担とする。

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